神代の比較 古事記と日本書紀 ~天地開闢編~

このブログでは、神代について記述した事が無かったので、これを機にまとめてみようと思ふ。
参考文献は、主に
『竹田恒泰著 現代語古事記』
『宇治谷孟著 日本書紀(上下巻)』
さらに九州王朝説で著名な
『古田武彦著 失はれた九州王朝』
の四冊を手元に置いてある。

 だが、暫くは、このうちの『古事記』と『日本書紀』を比較論的な書法で進めていかうと思ふ。
九州王朝説については学界では批判も少なくなく、私のやうな一臣民に過ぎぬ一般人にとっては敷居の高さを思はせるからである。

 さて、早速だが、まづは、「天地開闢」から始めたい。
『古事記』は、天武天皇の勅命によって編纂が始まった現存する我が國最古の歴史書である。稗田阿礼(ひえだのあれ)が、天皇の系譜、事績そして神話等を記した『帝紀』『旧辞』等の書物を誦習(しょうしゅう 書物等を繰り返し読む事)し、それを太安万侶(おおのやすまろ)が四ヶ月かけて編纂し、元明天皇の御世の和銅五年(七一二)に完成し、天皇に献上された。上・中・下の全三巻に分かれ、原本は存在してゐないが、後世の写本が現在に伝はる。
 その冒頭に安万侶による序がある。以下。
「(はじめに)根源はできたが、性質はまだはっきりしなかった。名もなく、動きもない形を知る者もゐない」
と記載がある。初めは天・地の形がはっきりしてゐなかったと説明してゐる。
 竹田恒泰氏は、「『旧約聖書』にはゴッドが天地を創造する場面が書かれてゐますが、『古事記』には天地がどのやうに作られたか書かれてゐません。『古事記』は、天地が初めて発れた時に最初の神が成った事を記してゐるだけです。」と述べてゐる。

 『竹田恒泰著 現代語古事記』を覗いてみよう。

『一 はじめに現れた神
天地が初めて発れた時、高天原に成ったのは天之御中主神でした。
間もなく高御産巣日神、続いて神産巣日神が成りました。この三柱の神は、いづれも独神ですぐに御身をお隠しになりました。独神とは男女の区別が無い神で、男神と女神の両方の性質をお備へになった神なのです(「成った」とは、未完成なものが完成することを意味する。また、神や貴人は「一人、二人」ではなく、「一柱(ひとはしら)、二柱(ふたはしら)」と数へる)。』
(竹田恒泰著 現代語古事記 16頁)

 つまり、『古事記』の場合、序では天地が混沌とした未分離の状態から始まったとしてゐるが、本文は天地が分離した状態から始まってゐるといふ違ひが見られる。

 では『日本書紀』ではどうか。
歴史物語として我々が『古事記』で教へられてきたものが、『日本書紀』の記述では、随分趣が変わってゐる事も少なくない。一方は愛すべき、ものがたりの『ふることぶみ(古事記)』であるとすれば、『日本書紀』は日本國の官選歴史書といった記録性を重視してゐる。

 今度は、『宇治谷孟著 日本書紀(上)』を参照する。

『巻第一
神代 上
天地開闢と神々
昔、天と地がまだ分かれず、陰陽の別もまだ生じなかった時、鶏の卵の中身のやうに固まってゐなかった中に、ほの暗くぼんやりと何かが芽生へを含んでゐた。軈てその澄んで明らかなものは、のぼりたなびいて天となり、重く濁ったものは、下を覆ひ滞って大地となった。澄んで明らかなものは、一つにまとまりやすかったが、重く濁ったものが固まるのには時間がかかった。だから天がまづ出来上って、大地はその後で出来た。そして後から、その中に神がお生まれになった。
それで次のやうにいはれる。天地が開けた始めに、國土が浮き漂ってゐる事は、例へていへば、泳ぐ魚が水の上の方に浮いてゐるやうなものであった。そんな時、天地の中に、ある物が生じた。形は葦の芽のやうだったが、間もなくそれが神となった。國常立尊と申し上げる。(大変尊ひお方は「尊」といひ、それ以外のお方は「命」といひ、ともにミコトと訓む。)次に國狭槌尊、次に豊斟渟尊と、全部で三柱の神がおいでになる。この三柱の神は陽気だけをうけて、ひとりでに生じられた。だから純粋な男性神であった、と。』
(宇治谷孟著 日本書紀(上) 15頁~16頁)

『昔、天と地がまだ分かれず、陰陽の別もまだ生じなかった時…』
これによると、『日本書紀』は未分離の状態から始まってゐる。
 つまり、『古事記』は天地が分離した状態から始まるが、『日本書紀』は未分離の状態から始まる、といふ記紀の内容に違ひがある。
 また『日本書紀』の場合、この本文の他に「一書(あるふみ)」といふ別伝承を幾つかあげる事があり、天地開闢神話についても六つの一書が記されてゐる。宇治谷孟訳の六つの一書をこのブログに書写しておきたいが、次回に譲る。
 次回は、これと、上記にある記紀の天地開闢における内容の違ひについて、その理由含め考察する。

※参考文献
  • 「竹田恒泰著 現代語古事記」
  • 「宇治谷孟著 日本書紀(上)」
  • 「古田武彦著 失はれた九州王朝」
  • 竹田恒泰著 現代語古事記
  • 宇治谷孟著 日本書紀(上)
  • 古田武彦著 失はれた九州王朝

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