再エネに必要なシステムコスト ~SDGs~ 皇紀2683年

 再エネ導入の大きな目的は、温暖化対策だ。温室効果ガスの中で最も大きな比率を占める二酸化炭素は、化石燃料の燃焼により生じる。石炭、石油、天然ガスを利用する火力発電の比率を下げるためには、二酸化炭素を排出しない原子力或いは再エネによる発電を行ふ事が必要になる。しかし、耶蘇教暦2010年度に11億3700万トンだったエネルギー起源二酸化炭素排出量は、再エネ導入支援策が2012年に導入されたにも関はらず、2018年度で10億5900万トンとわずかに減少しただけである。原子力発電所の停止に伴ひ火力発電所の利用率が上昇した事から、二酸化炭素排出量の大きな減少は実現してゐない。

 現在、日本政府が重要政策に位置づけてゐるのは、経済政策ではなく、地球環境政策である。令和2(耶蘇教暦2020)年10月26日、菅義偉(当時)総理は、所信表明演説で、国内の温室効果ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」にするとする方針を表明し、世間を驚かせた。さらに、令和3(2021)年4月22日、菅首相(当時)は、政府の地球温暖化対策推進本部で、2030年の温室効果ガス排出量を、2013年比46%削減する目標を示した。
 この目標達成のため、再エネからの発電量をさらに増やす計画を政府は設定してゐるが、再エネ発電量が増えれば、電気料金はさらに上昇する事になるのではとの疑問がある。また、過去の再エネ導入は産業振興に結びついてゐない。

 ところで、米カリフォルニア州は、温暖化対策に熱心な州として知られてゐる。住宅を新築した際には太陽光パネルを屋根に設置する事が義務化されたり、或いは自動車からの二酸化炭素排出を抑制するため、電気自動車などの導入をメーカーに求めたりしてゐる。同州での太陽光、風力発電設備導入は大きく増えたが、2020年8月に停電が発生した。その理由は、日没に伴ひ太陽光発電量がほゞなくなったにも関はらず、熱波により冷房のため電力需要量が落ちなかったためだった。天候次第で、常には発電できない再エネ設備をバックアップするため本来は火力発電設備を維持しておくべきだが、二酸化炭素排出量削減のため州政府公共事業委員会は電力会社に火力発電設備の閉鎖と蓄電池への切り替へを要請してゐた。委員会は停電を受け、閉鎖予定だった火力発電設備の運転延長を一転して決める事になった。
 この事例が示すやうに、再エネには電気を安定的に需要家に送るための追加のコストが必要になる。一番わかりやすい追加コストは、蓄電に必要なコストだ。例へば、需要量が大きくない時にも日照と風量があれば発電されてしまふが、余剰の電気は捨てられる事になる。その電気を蓄電池に貯めておき、電気の使用量が大きい時に使ふ事が考へられる。たゞ蓄電池のコストは高く、電気が私達の手元に届く時のコストを押し上げる事になる。火力発電設備を用意しておき電気が不足する時に発電する方法もあるが、火力発電設備の利用率は低くなり、低利用率設備の発電コストは高くなる。いづれにしても、再エネの電気を安定的に利用するには追加のコスト(システムコスト)が必要となり、その金額は決して小さくはないのだ。

 先に述べたやうに2030年に2013年比温室効果ガス46%削減を実現するため、再エネ設備をさらに増やす事を政府は想定してゐる。その頃には再エネ発電設備のコストが下落し、発電コストも下がるとの見込みだが、問題になるのは、このシステムコストである。2030年に設備を新設した際の発電コストの試算では、太陽光の発電コストが原子力のコストを下回ったと2021年7月に報道されたが、これにシステムコストは含まれてゐない。発電コストは安くなっても、需要家の元に届く時の再エネのコスト全体は必ずしも安くなるわけではない。

※参考文献
  • 「川口マーン惠美著、掛谷英紀著、有馬純著ほか SDGsの不都合な真実 「脱炭素」が世界を救うの大嘘」
  • 川口マーン惠美著、掛谷英紀著、有馬純著ほか SDGsの不都合な真実 「脱炭素」が世界を救うの大嘘

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