円安依存における企業利益と生産性及び実質賃金 ~就業者一人あたりGDP~ 皇紀2682年

 これまで時価総額ランキングの最上位は、GAMMA(GAFA+M。FacebookがMetaと社名を変へた為)といふ企業群が独占してゐる。
この時価総額ランキングの世界トップ100社に、高度成長期の日本の代表企業であった企業の多くが、最早トップ100社のリストからは大きく外れてしまった。日立製作所(現在は、世界369位)、パナソニック(836位)、日産自動車(1046位)、東芝(1086位)といった具合だ。
 但し、これは、日本の特殊事情ではない。アメリカでも似た事が起きてゐる。
 耶蘇教暦1990年代までの主要企業で今も世界の100位以内に残ってゐるのは、AT&T(74位)だけである。しかしアメリカでは新しい企業が誕生してゐる。そして、新旧企業の交代が起きてゐる。
 一方、1980年代までの日本経済を支へた企業が、今や上位100社のリストから姿を消した。残ってゐるのはトヨタ自動車だけである。
 では、旧来型の企業に代はって世界のトップ100社までに入ってゐるのは、どんな企業か?については、次回以降に譲るとして、ここでは割愛する。

 まづ、賃金についての基礎的事項を抑へておかう。
賃金を引き上げる為、政府は企業に賃上げを要請するとしてゐる。或いは賃上げをした企業の法人税を減税するといふ。しかし、賃金と企業所得の分配率は、技術によって決まる面が大きい。
 賃金を引き上げるには、就業者一人あたりの付加価値(生産性)を増やす必要がある。これが増えない限り、賃金は上がらない。尚、「生産性」とは、就業者一人あたりGDPの事である。これは一人あたりGDPと似た指標だが、分母が、総人口ではなく、就業者数になってゐる。
 日本の一人あたりGDPは、1980年代までは顕著に増加したが、90年代中頃に頭打ちとなり、その後は現在に至るまで殆ど変化してゐない。20年以上の期間に渡って、一人あたりGDPが停滞してゐる。この為に賃金が上昇しない。
 野口悠紀雄氏は、『この状態から脱却しない限り、賃金が上昇するはずがない』と断言してゐる。

 消費者物価の上昇率と実質賃金の上昇率は相関してゐる。では、物価が先か?賃金が先か?

  • ①生産性が上昇して売り上げが増え、労働者一人あたりの付加価値が増えて、賃金が上がる。その結果、需要が増えて、物価が上がる。
  • ②何らかの理由で物価が上がり、それを補ふ為に賃金を引き上げる必要が生じ、賃金が上がる。

 実際には②は例外的にしか起きない。野口悠紀雄氏は、『今、何らかの外生的な要因によって、物価が上昇したものとしよう。それに対応して賃金が上がるとしても限度があるはずだ。実質賃金を一定に保つのが限度であり、実質賃金を引き上げるやうな事はないだらう。』と述べてゐる。

 それでは、本題の「円安で企業利益が増えるメカニズム」について、触れていかう。

 海外での売上高を一定とすれば、円安になれば円表示での売上高は増加する。他方で輸入価格も同一率で上昇する。だから貿易収支が均衡してゐれば、国全体としては、円安の効果は相殺されるはずである。
 しかし、企業は、輸入価格上昇による原材料費の上昇を、販売価格に転嫁する。また、国内での賃金は、為替レートに関はらずほゝ一定だ。この為、企業利益が増えることになる。

 野口悠紀雄氏は、円安依存が望ましくない点について、

 企業が技術開発したり、産業構造を改革したりしなくとも利益が増える為、変革が実現しないで済んでしまふからである。
 日本は、1990年代の後半以降、円安政策をとるやうになり、2000年以降は顕著な介入政策をとった。この為、1990年代頃までの産業構造が温存される事となった。

と、これこそが、日本経済衰退の基本的な原因である、といふ。
改革や変革といふ表現に対し左翼用語である、と排斥したくなる気持ちは分かるが、ここで理解しておくべき要点は、円安依存によって企業が技術開発や設備投資を怠る傾向になる、と解釈すればいい。

 円安依存は、一見したところ企業の利益に寄与するやうに見えるが、長期的に見れば技術力を奪ひ、そして経済の活力を奪ってしまふのである。

 では、円高を克服する条件とは何か?
これについて、次回以降考察していく。

※参考文献
  • 「野口悠紀雄著 円安が日本を滅ぼす」
  • 野口悠紀雄著 円安が日本を滅ぼす

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