参考書籍は平成20年の発行で、近年とは若干の時代錯誤があるかもしれないが、イスラエル・ロビーについて記述があったので以下に引用する。
『ユダヤ系アメリカ人が「イスラエル・ロビー」の中核を形成してゐるが、特筆すべきは、全てのユダヤ系アメリカ人がイスラエルの政策を支持してゐるわけでもなく、ユダヤ系の多くもイスラエルの為積極的な活動をしてゐるわけでもない』
と、著者のスティーヴンは述べてゐる。
また、『アメリカの政策に影響を与へるイスラエルの能力の高さは、非ユダヤ教の支持者達、中でも所謂「キリスト教シオニスト」らの持つ政治力によっても効果を上げてゐる』と云って、このグループに所属する代表的な人物に、テキサス州選出の共和党下院議員のリチャード・アーミー、トム・ディレイを挙げてゐる。
アメリカ系ユダヤ人や非ユダヤ教徒の協力者達は、ロビー組織やシンクタンク、親イスラエルの出版等、密接な共同ネットワークにより動員され、拡大され続けてゐる。中でも、アメリカで最も強力なロビー活動団体として知られてゐるのが、AIPAC(米国イスラエル広報委員会)である。
AIPACは、イスラエルにあまり友好的でない議員を繰り返し狙っては、その議員のライバル候補に資金を流し、落選させるやう謀ってゐる。
このやり方の有名なものとしては、1970年代後半にイリノイ州選出の上院議員だったチャールズ・パーシーの例がある。彼はアメリカとイスラエルの関係を「再考する」としたフォード政権の政策に真っ向から反対する内容の、AIPACの意見書にサインする事を断ってゐた。しかも、彼はパレスチナ人のリーダー、ヤサー・アラファトが他のパレスチナ過激派に比べれば「割合に」穏健だと発言してゐた為、AIPACの怒りを買ってしまったのだ。昭和59年(1984年)にパーシーが再選を狙って選挙に出馬した際、彼のライバル候補達は親イスラエル派の政治活動委員会から多額の選挙資金を受け取ってゐた。当時、ある親イスラエル派のカリフォルニア州のビジネスマンがイリノイ州でのパーシーをこきおろす宣伝費に100万ドル以上使ったとまで言はれてゐる。
実際のところ、AIPACとその関連組織は、議員個人にロビー活動を行ひ、法律を自分達の有利な方向へうまく誘導させる情報を彼らに提供する事で議会に直接影響を与へてゐる。
AIPACの元スタッフメンバーであるダグラス・ブルームフィールドも、「議員やそのスタッフが情報を必要としてゐる場合、彼らが最初に呼ぶのは議会図書館・議会調査室・委員会のスタッフ・行政の専門家等ではなく、AIPACである。しかも、これは日常茶飯事の事なのだ」と説明してゐる。その証拠として、ブルームフィールドはAIPACが「スピーチの草稿・法令の作成・戦術のアドバイス・調査の実行・法案の共同提案者の募集等は勿論の事、票をまとめる際等でも呼ばれてゐる」と報告してゐる。
彼らの影響力の強さの理由としてもう一つ挙げられるのは、現政権内にゐる親イスラエル派のアメリカ人の存在である。この説明は次回以降に展開していきたい。
- ※参考文献
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- 「ウォルト,スティーヴン・M.著 奥山真司譯 米国世界戦略の核心」
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