教育に関する勅語 ~井上毅と元田永孚の解釈 「中外」~ 皇紀2680年

 明治23年10月30日は、教育勅語の発布日である。
下記は、令和2年10月30日に、私が教育勅語を暗誦した動画。

【民間情報教育局長ダイクと
安倍能成文部大臣との対談メモ】


民間情報教育局長ダイクと安倍能成文部大臣との対談メモ
(図壱: 佐藤雉鳴著 日米の錯誤・神道指令 57頁~58頁)

 教育勅語について、民間情報教育局長ダイクと安倍能成文部大臣との対談メモである。

 佐藤 雉鳴氏はかう述べてゐる。
『ダイクの述べた内容を安倍大臣は正確に理解してゐない。安倍大臣は「之を中外に施して悖らず」といふ箇所は「真意は決してそのやうなものではない」とし、「天壌無窮の皇運を扶翼すべし」は問題になり得ると語ったのである。無論安倍大臣から「之を中外に施して悖らず」の真意は語られてゐないし、対談のこの部分は完全にすれ違ってゐる。ダイクが重要視した点を安倍大臣は軽視し、ダイクが話題にしなかった部分を安倍大臣は採りあげたのである。「一旦緩急あれば義勇公に奉じ以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」からは一般的な国民の義務を思ふのが普通であって、世界征服思想を読み取るなど小中学生でもあり得ないだらう。…いづれにしても、この対談記録が示してゐるのは、日米の要人による教育勅語の解釈に大きな違ひがある、といふ事である。』

 日本側は「天壌無窮の皇運を扶翼すべし」を問題視したのに対して、米国側は「之を中外に施して悖らず」を、日本の神道の影響を世界に及ぼし宣伝する世界征服思想である、と誤釈した。
日本側が問題視した「一旦緩急あれば義勇公に奉じ以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」については、米国は特に言及しなかったのである。

 文部省が出した公の教育勅語解釈は、世間で公定注釈書と云はれた明治24年の井上哲次郎著『勅語衍義』を踏襲してをり、同書には教育勅語渙発時の文部大臣芳川顕正が叙を寄せてゐる。しかしこれはあくまで井上哲次郎の私著として出版されたものである。

 現実に渙発された「教育に関する勅語」を起草したのは内閣法制局長官井上毅と天皇側近の儒者元田永孚であった。元田は日本人が祖宗の教へによらず、自ら甘んじて異国人たらんと欲してよいのか、と「教育大旨」に述べてゐた。そして井上毅は教育勅語起草七原則とも云ふべきものを総理大臣山縣有朋に報告してゐる。

  • ①君主は臣民の心の自由に干渉しない
  • ②敬天尊神などの語を避ける
  • ③哲学理論は反対論を呼ぶので避ける
  • ④政治上の臭味を避ける
  • ⑤漢学の口吻と洋学の気習とも吐露しない
  • ⑥君主の訓戒は汪々として大海の水の如く
  • ⑦ある宗旨が喜んだり、ある宗旨が怒ったりしないもの

 井上毅は自身が深く関与した大日本帝國憲法、その第28条にある「信教の自由」条項に矛盾しないやう慎重であったといってよいだらう。

 教育勅語が渙発された明治23年11月7日、陸羯南の新聞「日本」は、井上毅の「倫理と生理学との関係」を掲載した。
『倫理は普通人類の当に講明す所にして、之を古今に通じ、之を中外に施して、遁れんと欲して遁るる事能はず、避けんと欲して避くる事能はざるものなり、誰か倫理を以て儒教一家の主義といふや…世人が倫理を以て、儒教主義の特産に帰せんとするを笑ふ者なり』

 その内容は、倫理は儒教の占有物ではないといふものであったが、井上は、前述の起草七原則にあるとほり、勅語に関する論争を避ける為に草案作成と同時進行でこの「倫理と生理学との関係」を書きとめてゐたと思はれる。「之を古今に通じ、之を中外に施して」といふ教育勅語の最後段の文言が用ゐられてゐるからである。井上毅は、天皇のお言葉である勅語をめぐって何々主義云々との論争が起きないやう配慮してこの文章を書いた考へて妥当だらう。

 教育勅語の文部省通釈には「我が国はもとより外国でとり用ゐても正しい道」とある。第三段落の「之を中外に施して悖らず」の「中外」を「国の内外」と解釈してゐるのである。なぜ唐突に外国がでてくるのだらう。この解釈には根拠があるのだらうか。

 結論を先に云へば「之を中外に施して悖らず」の「中外」を「国の内外」とする根拠が井上毅や元田永孚に存在しない。即ち、その根拠を示す資料が見当たらないのである。
 教育勅語、第三段落の「之を中外に施して悖らず」の「中外」は、「全国民」、「国中」、「宮廷の内外」と解釈して意味が判然となる。

 ところで「中外」は詔勅において「宮廷の内外」「中央と地方」或いは「国の内外」などの意味で用ゐられてゐる。
(佐藤雉鳴著 日米の錯誤・神道指令)では、錦正社版『みことのり』からその主な詔勅を引用してゐるので、このブログでも次回に紹介したい。

※参考文献
  • 「佐藤雉鳴(著) 日米の錯誤・神道指令」
  • 佐藤雉鳴(著) 日米の錯誤・神道指令

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