「いずも型」護衛艦の空母化 ~海自のフラットデッキ艦の飛行甲板の「やはさ」とは~ 皇紀2684年

 前回の投稿で、(令和6年)現在も、海上自衛隊は、護衛艦を事実上の空母に改修する計画を進めてゐる事に触れた。
 そして、令和6(2024)年10月21日、護衛艦「かが」艦上でステルス戦闘機「F-35B」が初めて発艦したとの事だ。

 空母化について、6年前に出版された「兵頭二十八著 空母を持って自衛隊は何をするのか」といふ書籍の中で、当時の海自のフラットデッキ艦の飛行甲板の「やはさ」を詳説されてゐるので、以下に記す。


 現代の軍艦は、燃料等を重視して極力軽量化されてゐる。船体が軽ければ、エンジン騒音をあまり大きくしないで高速を出す事もできる。勿論艦の復元性(片舷へ大傾斜した時でも転覆には至り難い事)の観点からもトップ・ヘヴィーは好ましくない。それゆゑ、最上甲板に「SH-69K シーホーク」(全備重量11トン弱)クラスの中型対潜ヘリコプター以上の重さにも耐へられるやうな無駄な強度は、既存の海自のフラットデッキ艦には最初から与へられてゐないわけである。
 これが米海兵隊の現有強襲揚陸艦である『ワスプ』型であれば、全長257m×全幅43mで、『いずも』の248m×38mよりちょっと大きなだけのやうに見えるが、基準排水量は2万8233トンもあり、この重さだからこそ、飛行甲板に複数機の「F-35B」を載せても平気なだけの構造剛性も与へられるのであらう。因みに格納甲板も含めれば最大で20機程度の「F-35B」が『ワスプ』型には搭載できるとされてゐる。
 一体今(当時)の海自のフラットデッキ艦のヘリ甲板がどのくらゐ「やはい」のであるかといふと、2軸ローターの大型輸送ヘリコプターである「CH-47 チヌーク」(全備重量22トン強)は、『ひゅうが』型や『いずも』型の最上甲板の一番艦尾寄りか艦首寄りの限られたエリアに着艦する事は許されても、中央部分に着艦する事は、甲板強度の不足の為、許されてゐない。
 前後端部であれば、真下の格納甲板を3方向から囲ふ側壁が荷重を分担してくれるので、からうじて持ちこたへられるのでせう。
「MV-22 オスプレイ」(空虚重量15トン強、垂直離陸モードの最大重量23トン強)や「F-35B」(空虚重量15トン弱、最大離陸重量27トン強)は、現状(当時)では『いずも』型に同時に1機だけ着艦(または露天繫止)させる事ができるだけである。しかも現状(当時)であれば、発艦は「垂直離陸」モードでやってもらふしかない。

 米正規空母の蒸気カタパルト射出程ではないが、垂直離陸よりはずっと艦上機の兵装搭載量を増やしたり燃料消費を節約できる「自力短距離滑走離陸」モード(データは非公開だがその場合でも「F-35B」の戦闘行動半径は800km未満であらう。そして「ハリアー」の前例から類推するに垂直離陸だと150km未満でせう。)を安全に実現する為には、飛行甲板及びその裏側の油脂配管系の防熱処置が「F-35B」のエンジンの排気熱が高過ぎる為に至難だと想像される事から、『いずも』型の上部構造を全部とっかへる(恐らくついでにスキージャンプ台形にする)くらゐの大改装を施さぬ限りは、無理なのではないだらうか。
 もし改装に伴って1000トン以上も船体重量が増加すれば、到底今(当時)の最高速力30ノットは、出せなくなりさうだ(『ワスプ』型はスチームタービンながら最高22ノット)。
 現実的には、ごく少数の「F-35B」を1機づつ発艦させたり着艦させたりできるだけになるかもしれない。
 そんな「ミニ空母」「準空母」に、一体我が政府はどんな仕事をさせようとしているのでせう?

※参考文献
  • 「兵頭二十八著 空母を持って自衛隊は何をするのか」
  • 「太田述正著 防衛庁再生宣言」
  • 兵頭二十八著 空母を持って自衛隊は何をするのか
  • 太田述正著 防衛庁再生宣言

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