二段階革命論 ~労農者の意識~

以前「レーニンの敗戦革命論」については記事を書いた。

大東亜戦争とは? 其の2 [レーニンの敗戦革命論]

ここでは、「二段階革命論」をテーマにする。

 私がまづ申し上げたい事は、共産革命を企む者が、皆初めから「プロレタリア、つまり労農者階級が武器を持ち、ブルジョアを倒す」事を主張する者ばかりではない、といふ事である。寧ろ現在に於ては、かやうなコムニストは主流ではない。
それは、まづ第一段階として、封建主義を崩壊させるブルジョア民主革命を完成させる。この後、プロレタリア的階級は、必然的に、ブルジョアに対し鬱憤し、社会主義革命が起きる。これが二段階革命論である。
この事を、三田村武夫氏、田中英道氏は、次のやうに解説してゐる。


 東京、京都両帝大を初め、主として官立大学を中心とした学内のマルクス主義研究は、日本の共産主義運動に、先駆的役割を果し、その大衆化、普遍化の為に、重要な指導的役割を演じた事を注意する必要がある。
 マルクス主義も共産主義も、周知のごとく精緻にして高度なる理論体系と科学性をもつものなる故に、プロレタリア階級、つまり労働者、農民の解放闘争の武器たらしめる為には、どうしても理論の把握が必要となってくる。そこに、この運動の初期に於けるインテリ、マルクス主義者の歴史的な役割があったのだ。これはいづれの国の共産主義運動にも見られる例であるが、日本に於ては、この学内のマルクス主義研究が極めて大きな役割を果してゐる事を見逃してはならない。

「三田村武夫著 大東亜戦争とスターリンの謀略 82頁」


 野坂参三の見解は、日本共産党の指導者の一人福本和夫の福本イズムと呼ばれる「二段階革命」論と軌を一にし、ブルジョア革命から社会主義革命へと転化していく理論である。これは日本共産党の主流にならなかったルカーチ、グラムシなどの理論に近い新しい理論であった。
 ドイツに留学中だった福本は、フランクフルト学派の開祖であるルカーチに大きな影響を受け、帰国後「社会の構成並に変革の過程(1936年)」を出版し、そこで無産者的階級意識、即ちプロレタリア的階級意識の形成をすべきだ、と主張した。それまでの日本のマルクス主義は、経済的な分析をするのみで、民衆の意識の問題は取り上げなかったが、既に経済的階級闘争では資本主義社会を打開出来ない、と気付いたルカーチは労働者の意識を変へる事が重要であると主張したのであった。つまり社会主義は、マルクスやソ連共産党が初期に、資本主義の経済的矛盾によって必然的に革命が起きる、とした説ではなく、先鋭的な階級意識をつくって社会を主体的に変へなければならない、といふ理論である。

「田中英道著 戦後日本を狂はせたOSS「日本計画」―二段階革命理論と憲法 68頁」

『プロレタリア階級、つまり労働者、農民の解放闘争の武器たらしめる為には、どうしても理論の把握が必要となってくる。』
『既に経済的階級闘争では資本主義社会を打開出来ない、と気付いたルカーチは労働者の意識を変へる事が重要であると主張したのであった。』

 これは、資本主義の経済的矛盾によって、では、労農者は、解放闘争に至らない、つまり、高い賃金を得てをれば、蜂起しないといふ事である。その為には、第一段階として、ブルジョア民主革命なる「上からの革命」が必要であり、そこに「インテリ」が重要な役割を担ふ。これが「二段階革命論」である。
 また、野坂参三については、OSSを率ゐた一人ジョン・エマーソンが支那共産党の根拠地である延安で出会った野坂参三について書いてゐる。(ジョン・エマーソン 『回想録 嵐のなかの外交官』)

※参考文献
  • 「田中英道著 戦後日本を狂はせたOSS「日本計画」―二段階革命理論と憲法」
  • 「三田村武夫著 大東亜戦争とスターリンの謀略」
  • 田中英道著 戦後日本を狂はせたOSS「日本計画」―二段階革命理論と憲法
  • 三田村武夫著 大東亜戦争とスターリンの謀略

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