日本国憲法を策定したOSS ~ 象徴天皇制といふ対日戦略 ~

 日本国憲法、即ち占領憲法は、GHQが一週間程度で作った押し付けの空文である、といふ真実は、今や我が國内においても広く認知されつつある。

 この記事では、『一週間程度で作られた空文』たる点に着目する。つまり、空文ではあるが、中身はどうであるか?といふ事である。

 その前に、基礎に触れておく。

[大日本帝國憲法第一條] 大日本帝國ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス

我が國體を文字化した憲法典。

ところが、

[占領憲法第一条] 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

↑嘘である事は云ふまでもない。

 占領憲法が謳ふ象徴天皇制とは、我が國の歴史伝統慣習(國體)に照らし合はせても、そんな事実はなく、GHQ、つまり敗戦後のマッカーサーの主張である。ところが、このマッカーサーの主張は、実は、大東亜戦争開戦の半年後の昭和17年(1942年)6月に、情報工作の一貫として立てられてゐた事がOSS(戦略情報局)の機密文書によって明らかになってゐる。これは昭和天皇を平和のシンボル(象徴)として利用するといふ計画で、軍部と対立させ、日本國内を対立の渦中におかうとする計画であった。加藤哲郎氏は『象徴天皇制の起源』(平凡社新書)で、昭和17年(1942年)6月3日付けで米國陸軍省心理戦争課のソルヴァート大佐が起草した「日本計画(最終草稿)」と題する文書がそれである、と指摘してゐる。加藤氏は、OSSが占領憲法における「象徴天皇制」を指示したのが、1942年の早い段階でのOSSの「日本計画」文書によってである事を強調してゐる。がしかし、それが軍部との亀裂を生ぜしめる日本への謀略と考へられる事を批判してゐない。天皇を象徴とするといふ新しい憲法にまで影響を及ぼしたと指摘してゐるものの、OSSが占領期のGHQにまでつながり、占領憲法全体にまで影響してゐた事は考察されてゐないのである。
 敗戦後マッカーサーの対日政策にも占領憲法作成にも、多くの影響を与へたハーバート・ノーマンもジョン・エマーソンも、この組織にゐた事を思へば、この重要性が分かる。ノーマンは後に、マッカーシーによって米國共産党員であった事が暴露され、自殺に追ひ込まれてゐるのである(工藤美代子『悲劇の外交官』)。

 田中秀道氏は、『「天皇制」を打倒するよりも、その伝統の力を利用して國内を対立させ、日本の軍事力の膨張を抑へる方向に作戦を立てたのである。天皇の存在により、日本軍の士気をくじく事を当面のプロパガンダ戦略としたのであった。その為に11の宣伝目的を設定し、「日本の天皇を、慎重に名前を挙げずに平和のシンボルとして利用すること」を明記してるのである。』と示してゐる。
 この事は、日本共産党やソ連・コミンテルンや支那共産党の方針と異なる。彼らは「天皇制打倒」を主張し、軍部も同時に崩壊させる事を目指してゐた。しかし米國民主党政権の方針は、これと異なってゐた。これを戦後、マッカーサーによる良心的なアメリカの日本理解と取られた節があるが、これは元々、日本社会崩壊に向けた行程だったのである。
 そこには古い階級闘争を主張する共産党と、既にそれを断念したルカーチの資本主義分析に基づくフランクフルト学派の影響があったといふことが出来る。
 「フランクフルト学派」とは、元々ドイツのフランクフルト大学にゐたユダヤ人の社会学の学者達で、1923年にマルクス主義者G・ルカーチによって設立されたマルクス研究所から始まる。それがドイツ社会学研究所となり、ナチスの台頭とともに米國に亡命したのである。彼らの尊敬するルカーチの思想を紹介すると、それは「20世紀のマルクス主義」と呼ばれ、『歴史と階級意識』(1922年)が基本書である。

 日本国憲法、即ち占領憲法は、その文書たるや、被占領下で、GHQによって一週間程度で作られたが、その理念たる象徴天皇制は、大東亜戦争勃発直後から、ルーズベルト大統領率ゐる米國政府が準備してゐた「日本計画」によって、既に考案され始めてゐたと見る事が出来る。この「日本計画」は、それまでの日本打倒のプランである「オレンジ計画」の延長ではないか、と考へる向きもあるが、ここでは明らかに社会主義的な影響が色濃くなり、米國の覇権主義とは異なった色調をもってゐる。これまで、ソ連のスパイが米國に入り込み、昭和7年(1932年)のソ連・コミンテルンの日本計画(32テーゼ)がそこに大きな影響を与へたのではないかとの推測があるが、それとは異なるアメリカ人自身のある左翼的な部分が準備した、といふ事実があったと考へる事が出来るのである。

 次回は、先に出た「日本計画(最終草稿)」について辿っていきたい。

※参考文献
  • 「田中英道著 戦後日本を狂はせたOSS「日本計画」―二段階革命理論と憲法」
  • 田中英道著 戦後日本を狂はせたOSS「日本計画」―二段階革命理論と憲法

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