金曜日 12:00

もっとも、帝國憲法の個々の「内容」に対しては、不満がないではなかった。しかし、その不満は、戦後誤解されてゐるやうな事とは正反対に、幕僚軍人とか、新官僚とか、民間でもどちらかといへばむしろ右翼がかった人々等に多かったのであって、その理由とするところは、帝國憲法が、余りにも自由主義的であり、個人の自由を尊重し過ぎるとか、議会の権能が絶大に過ぎて、これでは「高度國防國家」建設もできないとか、「神速果敢な戦争遂行」も出来ない、とかいふ風のものであった。
殊に、ヒットラーとか、ムッソリーニとか、スターリンとかが出て来て、かれらが万事を自分の一存で、さっさと決定し、國を動かして行くやうに見えるのを見て、これに心酔する者が、帝國憲法を余りに自由主義的だとして、悪しざまに考へる事になったのである。

井上孚麿著『現憲法無効論 159頁』
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