まづイギリスで火がついた “デトロイト・テクノ” ~ヨーロッパで急上昇~ 皇紀2686年

 耶蘇教暦1988年5月、コンピレーション・アルバムのプロモーションに合はせてイギリスの雑誌『ザ・フェイス』は、6ページにも及ぶデトロイトの特集記事を組んだ。
ryotasaito.com/2233#uk_face

 コンピレーション・アルバムのタイトルはまるでこの記事と申し合はせたかのやうに、『Techno! The New Sound of Detroit』となってゐた。記事を書いたのはスチュワート・コスグロヴで、彼はこの当時のイギリスで、シカゴやデトロイトのアンダーグラウンド・ミュージックに関する権威でもあった。
 が、今このコンピレーションをよく聴けば、ホアン・アトキンス以外の曲はハウスと括られるべきものであることがわかる。勿論、それ/゛\の曲にはデトロイト特有のエレクトロニックなテクスチャーとメランコリーが含まれてゐる。デリック・メイはおそらくこのコンピレーションを “デトロイト・ハウス” としたかったはずなのだ。が、それではシカゴ・ハウスの二番煎じになってしまふ。ジャマイカ・レゲエを評価してもUKレゲエを中々認めなかったイギリスとしては、 “本場” といふブランドにこだはったのだ。デトロイトのアンダーグラウンドをプレゼンテーションする時、マーケティング戦略的に見ても “テクノ” といふ響きは友好的に思へた。
 勿論デトロイトのシーンをその初期から切り開いてきたホアン・アトキンスが “テクノ” といふ言葉に特別の愛着を抱いてゐたことも事実だった。実際アトキンスは、このアルバムの中で水を得た魚のやうに大好きなリエゾン・ダンジュルーズまでサンプリングし、その名もすばり “Techno Music” といふ曲を提供してゐる。

『Techno! The New Sound of Detroit』
 01 – Rhythim is Rhythim a.k.a Derrick May – It Is What It Is

 08 – Juan Atkins – Techno Music

Liaisons Dangereuses ‎– Dupont

因みにビルヴィレ・スリー(ホアン・アトキンス、デリック・メイ、ケヴィン・サンダーソン)の他に収録されてゐるのは、マイク・グラントに曰く、「本当の意味でデトロイトで最初にハウスを作った」エディ・フォークスとブレイク・バクスターの二人、それからアンソニー・シェイカーにマッド・マイクが在籍したゐたメンバーズ・オブ・ハウス。
メンバーズ・オブ・ハウスの曲にはジョージ・クリントンもシークレットで参加してゐる。

 イギリス人であるニール・ラシュトンは、アルバムに収録された最もポップな曲、インナー・シティの “Big Fun” をシングル・カットするが、ダンス世代の楽天主義をうまく表現したこの曲は、ヒット・チャートを駆け上がっていった。そして “デトロイト・テクノ” はまづイギリスで火がつくことになるのだ。
 ヴァージン(イギリスのレコードレーベル)が彼らに先行投資したのも、そしてまたニール・ラシュトンが自らインナー・シティのマネージャーを買って出たのも、彼らには売れる要素があったからだった。元々イギリスのニューウェイヴにも触発されてゐた彼らは、イギリス人好みのテイストを自然と身につけてゐたし、さらにブラック・ミュージックが得意とするソウルフルでアップリフティングな高揚感もそこにはあった。音楽産業に精通するイギリス人のマネージャーがついたインナー・シティは、ケヴィン・サンダーソン とパリス・グレイを中心としたパーマネントのグループとして活動することになる。

 コンピレーション・アルバム『Techno! The New Sound of Detroit』の成功とインナー・シティの “Big Fun” のヒットによってイギリスとの回路が開けたデトロイトは、シカゴのDJがさうであったやうにイギリスのクラブやウェアハウス・パーティに招かれるやうになり、彼らの知名度はヨーロッパで急上昇していった。とくに、多彩な技を駆使するデリック・メイのDJプレイは、彼のひときは秀でた存在感とともに大いに受けた。元々シカゴのロン・ハーディに触発されたメイのDJは、デトロイトでもそのテクニックや独創性は評判だった。ジェームズ・ぺニントンは、言ふ。

(耶蘇教暦)80年代のデトロイトのベストDJと言へばデリックだね。彼は手動でレコードを回したり色々な技を使ふけど、日によってTR808と909だけでDJしたりとか、とにかくアイディアが彼にはあった。他と違ふことを彼はやるんだ

 DJロランドにとってもデリック・メイはザ・ウィザードに次ぐ彼のヒーローだった。

ジェフ(Jeff Mills)、モジョ(Electrifying Mojo)、デリック(Derrick May)、この三人はそれ/゛\スタイルも違ってゐたけど、みんな凄かった。デリックのラジオ・ショーも俺には欠かせなかったね

DERRICK MAY Closing Set || DREAMING FESTIVAL 2025 – SIRIUS STAGE

※参考文献
  • 「野田努著 ブラック・マシン・ミュージック ~ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ~」
  • 野田努著 ブラック・マシン・ミュージック ~ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ~

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