礼に始まり礼に終はる ~一般礼式と神道礼式。対する朝鮮式~ 皇紀2679年

 『礼に始まり礼に終はる』と表現されるやうに、日本には礼を重んじる風習がある。
一般礼式では、礼は上半身を傾ける角度によって三つの種類に分けられる。十五度の礼を「会釈」、卅度の礼を「敬礼」、卌五度の礼を「最敬礼」と云ふ。この三種類は角度が異なるだけで、形は同じである。また、学校の朝礼などで「気を付け!」の号令が掛かることがあるが、これも立派な敬礼の一種である。これは元々軍隊礼式の敬礼の一種で「姿勢を正す敬礼」といふ、直立不動の姿勢を取ることである。日常でも、尊い方を迎へ入れる際などに、気を付けの姿勢を取ることもあるだらうから、これも加へれば、一般礼式での礼は四種類あると考へられる。

 さて、礼をする際の手の位置で注意しなければいけないことがある。近年、臍辺りの高い位置で指先を重ね、肘を張ってする奇妙なお辞儀が流行ってゐる。これは、「朝鮮式お辞儀」で、日本の作法ではない。この朝鮮式お辞儀は、百貨店の案内役、飛行機や鉄道のアテンダントなどに特に多い。竹田恒泰氏は、『何も朝鮮式であることを毛嫌ひしてゐるわけではない。この朝鮮式お辞儀が実に美しくないのである。』と述べてゐる。
 日本には神道の礼式で、低い位置で指先を重ねる「叉手(さしゅ)」といふものがあるが、これは手の位置が低いので肘を張らない。ところが、朝鮮式は手の位置が高く自然と肘を張る為、似て非なるものである。また日本のお辞儀は、上半身を腰から傾けるが、朝鮮式では胸から上を上げる。竹田恒泰氏は、『その為、朝鮮式は腹痛の為両手で腹を押さへてかゞみ込んでゐるやうに見える。やはりお辞儀をするときは、しなやかで優しい形になるべきで、朝鮮式のお辞儀は、日本人の作法の理想からかけ離れた形になる。』と警鐘を鳴らしてゐる。
 古式に則った装束を着装した時の礼式で、女性が両手で檜扇(ひおうぎ)を持つことがあるが、これも決して肘を張るやうな形にはならない為、朝鮮式とは異なる。現在では女性皇族が洋装で、檜扇の代用として扇子をお持ちになることがあるが、やはり肘を張るやうな持ち方はなさらない。朝鮮式お辞儀が流行したのは、新人研修を担ふ礼法の教師が、間違って教へてゐるのが原因と思はれる。かしこまった場で、間違へた礼をすると恥をかくので、十分に注意されたい。

 さて、角度の違ひにより、四種類の礼を紹介したが、以下にその要点を列挙しておく。これらの解説は次回に譲る。

 以下の三種類は、一般礼式による三種類の礼の違ひである。

[十五度の「会釈」]
部屋に入る前の一礼や、物を受け取り、或いは差し出す前の一礼、そして座る動作の前後の一礼などは全て「会釈」。卅度の「敬礼」]と卌五度の「最敬礼」以外の場合は全て十五度の「会釈」で良い。

[卅度の「敬礼」]
挨拶の時やお礼を申し述べる場合に用ゐる。主人に挨拶をする時の一礼。

[卌五度の「最敬礼」]
特に地位の高い人に対して、特に最上級の敬意を払ふ場合、もしくは最上級のお礼を申し述べるとき、謝罪するときなどに用ゐられる。その為、使用頻度は低く、さう頻繁に用ゐるものではない。十五度の「会釈」と卅度の「敬礼」以外の特別の敬意を払ふ必要がある場合は「最敬礼」。

 また、神社における礼式は、神道礼式といふ。以下は、神道礼式の礼である。

[十五度「小揖」(一般礼式では「会釈」といふ)]
「ニ拝ニ拍手一拝」の前後にする。

[卌五度「浅い平伏」]
榊(さかき)・幣(ぬさ)・鈴などでお祓ひを受けるとき。

[六十度「平伏」「磬折(けいせつ)」]
神主が祝詞を奏上してゐる間。六十度の礼は、立って行ふものを「磬折」といひ、座って行ふものを「平伏」と呼んでゐる。

[九十度「拝」]
神前で拝礼する時。「ニ拝二拍手一拝」の「拝」はこれに当たる。

 こちらのサイトを参照すると、以下が記されてゐる。

『「拝」とは腰を90度折り曲げる最も丁寧なお辞儀のことで、「揖」とはそれに次ぐ丁寧なお辞儀で、腰を凡そ45度の角度で曲げる「深揖」(しんゆう)と、腰を凡そ15度の角度で曲げる「小揖」(しょうゆう)との二種があります。つまり、腰を曲げる角度の度合ひから「拝>深揖>小揖」になるといふことです。「礼」とは、「拝」や「揖」の総称です。』

「礼」とは、「拝」や「揖」の総称である、と。

 神道礼式の解説も、次回に譲る。

※参考文献
  • 「竹田恒泰著 日本の礼儀作法 ~宮家のおしへ~」
  • 「中澤伸弘著 一般敬語と皇室敬語がわかる本」
  • 竹田恒泰著 日本の礼儀作法 宮家のおしへ
  • 中澤伸弘著 一般敬語と皇室敬語がわかる本 井原頼明著 増補 皇室事典(昭和17年)

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