農業競争力強化プログラムの矛盾 ~主要農作物種子法の廃止~

 日本各地で多種多様かつ「美味しい米」の生産を可能にしてゐる種子法がなぜ廃止されたのか?
種子法廃止は、平成28(2016)年10月に行なはれた規制改革推進会議農業ワーキング・グループと未来投資会議の合同会合ではじめて提起された。その提言された内容のうち、要点のみを以下に引用する。


2.施策具体化の基本的な方向

(1) 生産資材価格の引下げ
 関連産業の合理化、効率化等を進め、資材価格の引下げと国際競争力の強化を図るため、以下の方向で施策を具体化すべきである。
 ⑩戦略物資である種子・種苗については、國は、國家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。
 さうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害してゐる主要農作物種子法は廃止する

 この部分は、翌11月に政府が決定した「農業競争力強化プログラム」にほゞそのまゝ引き継がれた。平成29(2017)年4月の「主要農作物種子法を廃止する法律案」成立は、これを迅速に実行に移したものである。
 しかし誰しも疑問に思ふことは、都道府県が一般財源を使って公的種子事業に取り組んでゐるからこそ現状の価格で種子が供給されてゐるのであり、民間企業にゆだねた場合、種子の価格は上がるのではないか?といふことだ。

 昨今、農協や全農が農薬や肥料、配合飼料(穀物)といった生産資材を「高く売ってゐる」として批判されることが増えてゐる。農協や全農の販売価格が高いと思ふならば、他の業者から購入すれば済む話である。むしろ、農協や全農が批判されるケースがあるとすれば、生産資材における高いシェアを活用し、ダンピング販売で他業者を駆逐するといった戦略をとった場合ではあるまいか。
 三橋貴明氏は、
『農協や全農が生産資材を「安すぎる価格で売る」ならば、非難は正当化されるが、なぜか規制改革推進会議などは「高く売ってゐる」と批判してゐる。意味が全く分からない。』
と述べてるが、私も不可思議に思ふ。

 規制改革推進会議は、「生産資材を引き下げる」ための提言において、種子法の廃止を言ひ出した。
しかし現状では、各都道府県の奨励品種の種籾の価格は、1kg400~600円程度である。民間企業の種子はそれに比べると5~10倍高いと言はれてゐる。例へば、F1多収品種として知られる「みつひかり」(三井化学アグロ)の種籾は1kg4000円だ。何しろ、我が國は、種子法の存在のおかげで、一般に流通してゐる種の価格が「安い」状況になってゐるのである。
 抑も、我が國における種子生産のコンセプトは、「種とは公共財であるから、特定のビジネスのネタにするべきではない。國民の食料安全保障の基本として、税金を使ひ、安く、優良で、多種多様な種子を農家に提供しなければならない」といふ事なので、都道府県が供給してゐる日本の種は安い。
 規制改革推進会議の資料のタイトルに「生産者の所得向上」が掲げられ、この項目が「生産資材価格の引き下げ」の方策とされてゐる。実に不思議である。
 最終的な廃止理由では、生産者の所得向上や生産資材価格の引き下げには触れてゐないやうだが、「農家所得の向上」の方向とも矛盾してゐる。

 税金を投入してゐる我が國の公共財としての種は、安い。しかも、極めて優良な種子が供給されてゐる。

種子法とは?

※参考文献
  • 「安田節子著 自殺する種子」
  • 「農文協編 種子法廃止でどうなる? 種子と品種の歴史と未来」
  • 「三橋貴明著 日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム」
  • 安田節子著 自殺する種子 農文協編 種子法廃止でどうなる? 種子と品種の歴史と未来
  • 三橋貴明著 日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム

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